190623
ベッドの横のローテーブルに、プーさんのぬいぐるみを置いている。ウインクをして、青リンゴを抱えたそのプーさんは、ディズニーランドで購入したものではなく、中学2年生の誕生日に、当時の友人からもらったものである。
その他にぬいぐるみは持っていない。どうやって部屋に置いていいのか分からないからだ。
中学2年生のとき、ほんの一時だけ仲の良かったギャルがいた。私の通っていた中学校には2種類のギャルがいて、ひとつはファッションやメイクがいわゆる『イマドキ』で、教室の真ん中で笑っているカースト上位タイプのギャル。もうひとつは、上記にプラスして染髪していたり、スカートがめちゃくちゃ短かったり、とにかく校則に抗い、教師には反抗し、高校生のヤンキーと繋がっているタイプのギャル。
彼女は後者だった。
前者のギャルは正直性格が最悪な女子ばかりだったが、後者のギャルはなぜか優しい人が多くて、彼女も例に漏れず、ギャルにもオタクにも地味な子にも分け隔てなく優しい人だった。
私と彼女は1年生のときからクラスが一緒で、私のことは名前にちゃん付けで呼んでくれていた。
中学2年生の秋、彼女はほんの少しだけクラスの中で浮いていた。後者のギャルはクラスの中で彼女ひとりで、基本的に前者のギャルと行動していたのに、ある日を境に彼女は緩やかに除け者にされていった。何が原因だったのか、彼女のあまり良くない繋がりの中で何かあったのか、それとも紺のハイソックス全盛の中で頑なにルーズソックスを履いていたのが気に食わなかったのか、詳しいことは分からない。
それでも彼女が教室で1人で過ごす時間は増えて行った。
そうして、私は突然言われたのだ。『ねえ、うちに遊びに来ない?』
1日1回話すか話さないか程度の私をどうして誘ってくれたのかは分からないけれど、とにかく誘われた。しかも行ったのだ。私は。彼女の家に。
彼女の家の詳細はよく覚えていないけれど、彼女の部屋にはテレビはあるがベッドや布団はなくて、寝袋みたいな物で寝ていると言っていたのが印象に残っている。今考えればネグレクト気味のおうちだったのかなあと思うけれど、当時、自室にテレビのなかった私は、テレビあるっていいなあと思っただけだった。彼女はタバコを吸っていた。
話の途中、誕生日の話になって、私はもうそろそろだと答えた。そのとき彼女がくれたのが、前述したプーさんである。
おそらくクレーンゲームの景品だと思われるプーさんだったけれど、私はとても嬉しかった。かわいいぬいぐるみは、かわいい女の子しか持ってはいけないと思っていたから。
彼女とはそれっきり、仲良くもならず、仲悪くもならず、別々の高校に進学して、しばらくの後、妊娠したらしいという噂だけ聞いた。
彼女からもらったプーさんはまだ私の部屋にあるし、結局プーさん以外にぬいぐるみはない。あまり女の子らしい部屋ではないので、プーさんはあの頃の彼女みたいに、少しだけ浮いている。